悪性脳腫瘍の手術と化学療法:現状、可能性、そして未来
脳腫瘍は「頭蓋内に発生する新生物」の総称であり、その種類はWHO2016分類によれば約200種にも及びます。
脳腫瘍の発生頻度は肺がんの約1/10と言われ、比較的稀な病気ですが、その治療法の確立が困難であることから、多くの課題が残されています。
本記事では、悪性脳腫瘍の手術と化学療法に焦点を当て、スタンフォード大学医学部や東京大学などの大学機関の研究を参考に、現状の治療法、期待される成果、そして今後の課題を解説します。
脳腫瘍の診断と治療の基本
悪性脳腫瘍の治療において最も重要な最初のステップは、腫瘍組織の採取と診断です。
この病理診断や遺伝子診断に基づき、治療方針が決定され、患者の予後予測が行われます。
診断手法の進展
- 術中迅速診断やFACS解析を用いることで、手術中に腫瘍の性質を判断可能。
- 3D画像解析(MRIやCTA)により、腫瘍の位置や血管との関係を把握し、手術計画を最適化。
スタンフォード大学の研究によれば、遺伝子診断の活用により、脳腫瘍の個別化治療の可能性が広がっています。
特に、1p/19q共欠失やIDH変異といった遺伝子マーカーが治療の選択肢に与える影響が注目されています。
治療法の選択
脳腫瘍の治療は主に以下の3つの目的を持っています。
- 病理組織診断
- 腫瘍細胞の削減
- 頭蓋内圧のコントロール
手術の手法には、腫瘍摘出術、生検術(開頭、定位、内視鏡)、さらには髄液細胞診が含まれます。
手術と化学療法の現状と進展
最大限の腫瘍摘出
悪性脳腫瘍では、手術でできる限り多くの腫瘍を摘出することが患者の生命予後の延長につながるとされています。
一方で、摘出量を増やすほど、正常な脳機能へのダメージリスクが高まります。このため、脳機能モニタリング技術が活用されています。
脳機能を評価する手法で、
- MEP(脳を刺激して運動神経の伝達に問題がないか筋電図を見る検査)や
- SEP(体を刺激して、それが感覚神経を伝達して脳波の変化として脳でとらえられるかの検査)、
- VEP(光で目を刺激して、それが視覚神経を伝達して脳波の変化として脳でとらえられるかの検査)、
- ABR(聴性脳幹反応など)が含まれます。
- 顕微鏡は最新のものを使用しており外視鏡によるhead up surgery症例も増加しています。
- 覚醒下手術により、患者の意識を保ちながら脳機能のマッピングを行う。
局所治療と放射線化学療法
- 5ALA蛍光法による腫瘍の可視化。
- **ギリアデル®(抗がん剤含有基材)**による局所治療。
東京大学医学部の研究では、これらの治療法が腫瘍摘出後の再発予防において有効であることが示されています。
また、術後の放射線化学療法(テモゾロミド使用)は標準治療として確立されています。
現在の課題と今後の展望
課題
- 再発のリスク 悪性神経膠腫では、放射線化学療法後でも再発が見られることが多く、根治が難しい。
- 標準治療の未確立 多くの脳腫瘍において、統一された治療ガイドラインが確立していない。
今後の期待
- 遺伝子治療や免疫療法: スタンフォード大学では、免疫チェックポイント阻害薬の効果を検討中。東京大学でもCAR-T細胞療法が研究されており、これが新たな治療の扉を開く可能性があります。
- 人工知能の活用: 手術計画や予後予測において、AIを活用した画像解析が進展中。
まとめ
悪性脳腫瘍の治療は、手術、化学療法、放射線療法といった多面的アプローチにより進歩を続けています。
しかし、再発や副作用といった課題が依然として残されており、新しい治療法の開発が待たれます。
遺伝子診断の精密化や免疫療法の進展により、治療の選択肢が広がりつつある現在、さらなる研究と臨床試験が期待されます。
未来の治療法が患者一人ひとりに最適な形で提供される日を目指し、世界中の研究者と医療従事者が努力を続けています。