髄膜腫について
目次
はじめに
髄膜腫は、脳を包む膜である硬膜から発生する主に良性の脳腫瘍であり、原発性脳腫瘍の中で最も一般的なものです。
その発生頻度は全体の20~25%を占めます。
本記事では、髄膜腫の基本的な情報から、症状、診断、治療法、最新の研究動向まで、初心者にも分かりやすく解説します。
また、信頼性の高い医療機関の研究データに基づく情報を提供します。
髄膜腫とは?
髄膜腫は、脳や脊髄を覆う膜(髄膜)のうち、特に硬膜から発生する腫瘍です。
その多くは良性であり、ゆっくりと成長します。
しかし、発生部位や腫瘍の大きさによっては、周囲の脳組織や神経に影響を及ぼし、さまざまな症状を引き起こすことがあります。
発生部位による分類
髄膜腫は発生する部位によって以下のように分類されます:
- 円蓋部髄膜腫:脳の表面にできる髄膜腫で、症状が出にくく、成長速度が遅いため、かなり大きくなってから発見されるケースも多く見られます。
- 傍矢状洞髄膜腫:大脳の中心部に位置する矢状静脈洞の周囲に発生します。この部位の髄膜腫は、周囲の脳に浮腫(むくみ)を引き起こし、てんかん発作や麻痺などの症状を引き起こす率が高くなります。
- 大脳鎌髄膜腫:大脳半球を分ける大脳鎌に沿って発生します。この部位の腫瘍は、両側の脳半球に影響を及ぼす可能性があります。
- 蝶形骨縁髄膜腫:頭蓋底の蝶形骨付近に発生し、視神経や海綿静脈洞などの重要な構造に近接しています。そのため、視力障害や眼球運動障害などの症状を引き起こすことがあります。
- テント髄膜腫:小脳テントと呼ばれる膜状の構造に発生します。この部位の腫瘍は、頭痛や歩行障害などの症状を引き起こすことがあります。
- 後頭蓋窩髄膜腫:脳幹や小脳が位置する後頭蓋窩に発生し、平衡感覚の障害や顔面神経麻痺などの症状を引き起こすことがあります。
髄膜腫の症状
髄膜腫はゆっくりと成長するため、初期段階では無症状であることが多いです。しかし、腫瘍が大きくなると、発生部位や周囲の脳組織への圧迫により、以下のような症状が現れることがあります:
- 頭痛:特に朝方に強くなることが多いです。
- てんかん発作:特に円蓋部や傍矢状洞に発生する髄膜腫で見られます。
- 神経症状:手足の麻痺やしびれ、視力障害、言語障害など、腫瘍の位置によってさまざまな神経症状が現れます。
- 認知機能の低下:前頭葉に近い部位の髄膜腫では、判断力や集中力の低下などが見られることがあります。
髄膜腫の診断
髄膜腫の診断には、主に以下の検査が用いられます:
- 画像診断:MRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピュータ断層撮影)によって、腫瘍の位置、大きさ、形状を詳細に把握します。
- 生検:必要に応じて、腫瘍の一部を採取し、病理組織学的に良性か悪性かを判断します。
東京大学医学部の研究によれば、髄膜腫の診断の際には、通常型と退形成型を区別することが再発や転移予測において非常に重要であるとされています。
髄膜腫の治療法
髄膜腫の治療は、腫瘍の大きさ、位置、症状の有無、患者の年齢や全身状態などを考慮して決定されます。主な治療法は以下の通りです:
手術療法
髄膜腫の治療の第一選択肢は手術による摘出です。腫瘍が比較的小さく、周囲の重要な脳組織や血管への影響が少ない場合は、完全摘出が目指されます。
- 大脳円蓋部髄膜腫:この部位の髄膜腫は、比較的容易に摘出可能で、術後の回復も良好です。
- 頭蓋底髄膜腫:蝶形骨や小脳テントなど頭蓋底に発生した髄膜腫は、重要な神経や血管が腫瘍に絡みつくことが多いため、完全摘出が難しいことがあります。この場合、部分摘出後に放射線治療が追加されることがあります。
- 巨大髄膜腫:腫瘍の大きさが非常に大きい場合、手術中の出血量が多くなる可能性が高いため、術前に血管内治療(腫瘍に栄養を供給している血管を塞ぐ治療)が行われることがあります。
手術後の管理
手術後は、神経症状の回復状況や再発の有無を確認するため、定期的なMRIやCTによるフォローアップが必要です。また、手術中に完全摘出が難しい場合は、追加治療が考慮されます。
放射線治療
完全摘出が困難な場合や悪性度が高い髄膜腫(退形成性髄膜腫)では、放射線治療が行われます。放射線治療には以下の方法があります。
- 定位放射線治療(ガンマナイフなど)
腫瘍の部位を高精度で狙い撃ちする治療法で、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えられます。 - 外部放射線治療
広範囲に放射線を当てる方法で、特に広い範囲に腫瘍が広がっている場合に用いられます。
東京大学医学部の研究では、放射線治療の併用により再発率が大幅に低下することが示されています。
経過観察
症状がない小さな髄膜腫の場合、すぐに治療を行わず、経過観察を選択することがあります。定期的な画像検査を行い、腫瘍の成長速度や症状の出現をモニタリングします。
髄膜腫の予後
髄膜腫の予後は一般的に良好ですが、以下の要因が予後に影響を与えることがあります。
- 腫瘍の完全摘出の可否
完全に摘出できた場合、再発率は非常に低くなります。 - 腫瘍の病理学的分類
髄膜腫はWHO分類で3つのグレードに分けられます。- グレードI(良性):最も一般的で、治療後の予後が良好です。
- グレードII(異型髄膜腫):再発率が高く、放射線治療が必要な場合があります。
- グレードIII(退形成性髄膜腫):悪性度が高く、再発や転移のリスクが高いため、積極的な治療が求められます。
- 発生部位
頭蓋底や重要な脳神経付近に発生する髄膜腫は、摘出の難易度が高く、再発のリスクも増加します。
最新の研究動向
遺伝子解析の進展
近年、髄膜腫の発生に関与する遺伝子異常が明らかになりつつあります。
特に、**NF2遺伝子(神経線維腫症2型)**の変異が多くの髄膜腫で確認されています。この発見は、将来的な分子標的療法の開発につながる可能性があります。
免疫療法の可能性
髄膜腫に対する免疫療法の研究が進んでおり、腫瘍の増殖を抑える新しい治療法として注目されています。
免疫チェックポイント阻害剤や腫瘍ワクチンの臨床試験が進行中です。
放射線感受性の改善
新しい放射線治療技術や、放射線感受性を高める薬剤の研究が進んでいます。
これにより、低用量の放射線で効果的に腫瘍を制御することが可能になると期待されています。
まとめ
髄膜腫は主に良性の脳腫瘍であり、適切な診断と治療により良好な予後が期待されます。
しかし、発生部位や病理学的分類によっては、高度な治療が必要なケースもあります。
本記事では、髄膜腫に関する基礎知識から最新の研究動向までを網羅的に解説しました。
信頼できる医療機関の情報や最新の科学的知見を基に内容をお届けしました。
髄膜腫について不安がある方は、専門の医療機関で適切な相談を受けることをお勧めします。